第5章 降り止まない雨はない
長「主はどこにいらっしゃるのか!」
離れた場所から聞こえて来る長谷部さんの声を頼りに、廊下を駆け抜ける。
出陣する際には私も身支度をして見送るんだと聞かされたばかりだったと言うのに、太郎太刀さんと話す事ばかりを考えていて忘れてしまっていた。
届く声の感じからきっと姿を表せば一つや二つお小言を言われるだろうけど、それは私に非があるのだから仕方ないと思いつつ行き当たった廊下を曲がれば、ドンッと何かに衝突して尻もちをついた。
『いったたた・・・あ、長谷部さん』
長「あ、長谷部さん、じゃありませんよ!いったいどちらへ行かれていたのですか!お支度があると伝えて置きましたよね?!」
『すみません、ちょっと所用があって』
ペタリと座り込んだまま見上げて言えば、全く・・・とため息を吐きながらも、長谷部さんは立ち上がる為に手を貸してくれた。
長「所用?」
『はい。でもそれは私個人の事であって、その、ちょっと太郎太刀さんが気になったのでお話を、と』
それは隠す必要もない本当のことで、それがいま必要だったのかと問われれば正直に必要だと言えることでもあった。
長「主のお気持ちは察し致します。が、今は何よりお支度を。部屋の前で加州達が待っております故、参りましょう」
自身も出立するというのに未だ普段と変わらない内番服のままの長谷部さんが、小さく息を吐きながら私の背中に手を当てた。
『長谷部さん、部屋へは私ひとりで戻ります。なので長谷部さんこそ身支度を。私の身支度は加州さん達がいるんでしょう?だったら、その方が時間短縮にもなりますから』
長「ですが主の今の近侍は、」
『大丈夫です。それに迎えも来てますし、ほら?』
チラリと足元に目を落とし、フワリと大きな尻尾を揺らすこんのすけを見れば、こんのすけはチリンと鈴を鳴らして長谷部さんを見上げた。
長「いつの間にこんのすけが?いや、今はそんな事を考えている暇はない・・・こんのすけ、主を部屋まで」
「では主、参りましょう」
『はい。長谷部さん、すぐに支度して集合場所へと行きますから』
ぺこりと頭を下げて、早く早くと振り返るこんのすけの後に続いて早足で部屋へと向かえば、部屋の前で加州さんと歌仙さんがまだ来ないのかと言わんばかりに腕組みをして立っていた。