第4章 懐かしい味と、優しい味
きっとこのまま長谷部さんがと思っていた私は、突然そう言われて思わず素っ頓狂な返事をしてしまう。
長「もちろんです。特別な理由がない限りは近侍がそれを発表する事はありません」
特別な理由、か。
長谷部さんが書いてくれた毛筆の文字を間違える事なく読めるか分からないと言うのは、長谷部さんの言う特別な理由にはきっと当てはまらないよね。
これも私の仕事であるなら務めるべきだと腹を決めるも、その紙に美しく並ぶ文字を見ると急速に緊張が高まり手が震え、思わず隣りに姿勢よく立つ長谷部さんの顔をチラリと見ると、それに気付いた長谷部さんが震える私の手に自分の手を重ねてふわりと柔らかく笑った。
長「大丈夫ですよ、主。何かあれば隣には近侍である俺がいます」
『でもなんだか緊張してしまって』
長「緊張?そうですか、では、演練の時のご自分を思い出して見てはいかがでしょう?ほら、あのズル賢い審神者を地に叩き伏せた時のあなたは、それはそれはとても勇敢な姿であられましたから」
叩き伏せたって、もしかしてあの最後の一撃シーンのこと?!
それを今ここで思い出せと?!
カァッと熱くなる顔を隠すことなく向ければ、長谷部さんは小さいながらもクスクスと笑い出してしまう。
『そ、そそ、そうですよね・・・頑張ります。って言うか、なるべく早めにその事は忘れて頂きたいです、ハハッ・・・』
審神者たるもの、これくらいの事で緊張してどうする!頑張れ私!と鼓舞しながらも、ひと息長めの深呼吸をしては、広げた紙に目を落とした。
『では、今回の討伐へと向かう隊の編成を発表します。打刀 へし切長谷部、同じく打刀 和泉守兼定、脇差 堀川国広、短刀 薬研藤四郎、同じく短刀 今剣、大太刀 ・・・ 太郎太刀』
順を追って名前を発表すれば、呼ばれた者はただ静かに頷くだけの人や、おぉっ!任せろ!と声を上げる人。
これはまぁ、和泉守さんだけだけれど。
ただ、太郎太刀さんだけは静かに頷く事も、和泉守さんのように声を上げることもなく、その表情はまるで凍てつく氷のようにも見えた。
『・・・以上六名編成、隊長は へし切長谷部とします』
最後まで読み上げたものの、どうしても気になってしまい太郎太刀さんの顔を見続けてしまった。
この隊編成で、本当に良かったのだろうか。
そんな思いが、少しずつ胸の奥を占めていった。
