第4章 懐かしい味と、優しい味
❀❀❀ 薬研藤四郎 side ❀❀❀
「これはまた急な話だな」
手入れ部屋にいた俺の所へ珍しくこんのすけが現れたと思えば、政府の伝達だと口早に言った。
「時間遡行軍は我々の予想もつかない行動をするものであります。故に、ただいま主と長谷部が部隊の調整をしておりますゆえ、他の皆様には取り急ぎ広間へ集まっておくようにとの事でございます」
「分かった。それで、今回の行き先はどこだ?」
もし、自分が隊に入るとするならばと考え研究の記録を終えた書物を閉じながら聞けば、こんのすけは戸惑うことなくその行き先を告げる。
「・・・そうか。随分と懐かしい場所、だな」
「お懐かしいとは?」
「いや、こっちの話だ。気にするな」
「では、この後も他の方々にも広間へ集まるようにお伝えせねばなりませんので」
そう言うとこんのすけは来た時と同じようにチリンと鈴を鳴らしたかと思えば姿を消した。
まさか太郎太刀を部隊編成にだなんて、考えてはいないよな?いや・・・生真面目な長谷部の事だ、隊のバランスに必要なら任務の為に迷うことなく編成に入れるだろう。
こんのすけは、審神者である主が変わる度に新たなものへと変わって行く。
だから今のこんのすけは、あの時の事を知らないだろう。
今の主が来る前にいた、たったひとりの女主の事を。
その主を看取った、太郎太刀の事も。
そして、それをずっとみていた長谷部の事すら・・・
俺たちはいわゆる付喪神と呼ばれ、人のカタチをしてはいるが。
本来の人である歴代の主たちの心までは、同じように映し出す事は出来ない。
人それぞれ考え方も、何かを、誰かを思う気持ちも違うからな。
乱「薬研ー!任務の話があるから広間に集まれだってー!一緒に行こ?」
考え事をしている間にこんのすけの伝達が広まったのか、突如として乱が手入れ部屋のドアを開けた。
「あぁ。ちょうど手が空いたところだから、今行くよ」
乱「早く早くー!」
分かったから静かにしろと乱に言いながら、羽織っていた白衣を脱いだ。
俺が部隊に入るとしたら、今度これを着るのはいつになるんだ?と少し惜しみがちに見ながら、乱に引っ張られるようにして手入れ部屋を出た。