第4章 懐かしい味と、優しい味
賑やかな朝食の後、長谷部さんの付きっきりの座学の時間が始まり、話に聞いていた顕現についていろいろと説明を説かれているとチリンと鈴の音をさせながらこんのすけが姿を現した。
「主。政府から直ちに部隊を編成し、歴史に手を加えようとする者を討伐せよ・・・との事です」
『討伐って演練とは違うってことですよね?』
長「噛み砕いて言うとすれば、実戦です」
『じゃあ、もしケガをしたら演練の時みたいにすぐには治らないってことですよね?!』
実戦と聞いて過去の資料を読み込んだ事を思い出し、その時の記述に生死をさまようほどのケガをした人が、完治するまでに時間が必要だったとあったことを問えば、長谷部さんは黙って頷いた。
長「ただ、負傷すればという事になりますが」
『でも、必ずしも全員が無傷で帰れる保証もないんですよね・・・それは、嫌です』
あの演練の時、一度死んでしまっている私でさえ刀傷は痛かったし、薬研さんの治療とやらも痛いし苦しいものだった。
みんなからしたらかすり傷程度のあれでさえそうだったんだから、重傷ともなればきっともっと痛くて苦しいものだろうから。
長「しかしながら主、政府からの伝達は」
『分かってます、ちゃんと。頭では理解しているつもりです。けど、こんなにも早くそんな指示があるとは思ってなくて気持ちがついていけないだけです』
過去の審神者たちは、初めて政府からの達しがあった時どういう気持ちで班分けをしたんだろうか。
記述には過去の審神者がどういった人達だったのかは記録されてなかった。
ただ性別や年齢層だけが残されていて、それを見る限りはたったひとりを除いては男性で、私より遥かに大人で。
そう考えると、今の私のようにグズグズと迷っていたこともなかったんだろうとため息を吐く。
長「あなたは、過去に1人だけいた女性の主に・・・似ていますね」
『長谷部さんは、その方を覚えていらっしゃるんですね』
そう返せば長谷部さんはまた小さく頷き、長くここで生きている自分たちには、忘れようとも忘れられない存在だからと私に告げた。
長「あのお方は、主よりもずっと大人ではありましたが、今の主のように初めて実戦の指示が出た時は随分とお悩みになられていましたよ」
それを懐かしむような長谷部さんの瞳は、どこか切なそうにも見えて。
なんだかとても、胸が苦しくなった。
