第4章 懐かしい味と、優しい味
燭「今度は卵焼き食べようか?まずはこれから・・・はい、あーんして?」
こう何度も食べさせて貰っていると、最初に恥ずかしいと思った気持ちは少しずつ薄れて、差し出される事が不自然に感じる事もなくなっていく。
・・・気がする。
そんな自分に胸の中で微かに苦笑しながらも、言われるままに口を開けると小さめに切り分けられた卵焼きが口へと運ばれた。
『甘い・・・でもこの味って』
口の中に広がる卵焼きの甘さが懐かしい味に思えて、もうひとつ、もうひとつと燭台切さんにお強請りをしてしまう。
燭「この卵焼きなんだけど、実はこんのすけから聞いたんだよ。この味、キミが好きな味なんだって?」
それを聞いて、途端に視界が滲んで行くのを隠せなかった。
そうだ・・・この卵焼きの味は・・・
長「こんのすけに?それはどういう?」
歌「僕たちが卵焼きはどんな味がいいんだろうって話していた時に、ちょうどこんのすけが通りかかってね」
燭「せっかくなら、主が好きな味にしたらどうか?って言われて。じゃあ、それってどんな味なの?って聞いたら、作り方を調べて教えてくれたんだよ。なんでも、主のおじいさんがよく作ってくれてた味らしくて」
そう話す燭台切さんが、歌仙さんと顔を合わせて、ね?と小さく首を傾けた。
歌「僕も卵焼きに三温糖を使ったのは初めてだったけど、優しい味わいに仕上がったよね。作りながら2人で味見をしたんだけど、初めて食べる味なのに、どこか懐かしい気持ちになったよ」
長「食べた事がないのに懐かしい?」
言われている事が理解出来ないと言わんばかりの顔をする長谷部さんに、燭台切さんがひとつ食べてみると分かるよと言って卵焼きを差し出すと、長谷部さんはひと切れを摘んで口へ入れると、長谷部さんは味わいながらも、なるほど・・・と頷いた。
燭「どう?歌仙くんが言ってる意味が分かるでしょ?」
長「これが主の故郷の味か・・・」
『故郷とか、そんな大袈裟なものではありませんけど、私が小さい頃から食べ馴染んでいた味です。凄く優しくて、懐かしい・・・この卵焼きは私の祖父が、おやつにって作ってくれたんです。剣術の練習では厳しかったのに、なぜか卵焼きだけは優しい味で。私はこの卵焼きが大好きでした・・・』
そう言ってまた卵焼きを口に入れて貰っては、懐かしさと優しい味わいに涙が止められなかった。
