第4章 懐かしい味と、優しい味
「・・・え・・・・・・給え・・・」
カサリ、カサリという何かの音に混ざって、誰かの声が聞こえて来る。
誰だろうその声はとても穏やかで、気持ちを落ち着かせてくれるような温かさもあって。
その声に引っ張られるように、閉じていた瞼が少しずつ開いていく。
長「主が・・・目を・・・」
長谷部、さん・・・?
に「石切丸の祈祷が効いたようだね」
にっかりさんも・・・?
それに今、石切丸さんって・・・。
完全に開き切らない視界を、ふわりと誰かの手が遮り額に当てられる。
石「熱は・・・まだ少しあるみたいだけど、気分はどうかな?」
自分の体温が高いせいか、ひんやりと感じる石切丸さんの手が心地よくて表情を緩めた。
『少し、喉が乾きました。それから・・・』
石「それから?」
何となくお腹が空いた気がすると言おうとしたら、言葉よりも先に空腹を合図する音が小さくなってしまい・・・石切丸さんに目を細められてしまう。
『い、今のは、えっと・・・』
は、恥ずかしい!
に「聞いたところによると、キミはお昼を食べる前に薬研のところで倒れたらしいからね」
あ・・・そういえば、そうだったかも・・・
石「それなら尚更、食べられそうなら少しでも食べた方がいいね」
に「じゃあ、僕が燭台切と歌仙に消化の良いものをお願いしてくるよ」
石「私も一緒に行こう。主には近侍がそばにいるからね」
近侍、今日も確か長谷部さんだ。
ゆっくりと頭を動かして部屋の隅を見れば、そこには難しい顔をした長谷部さんが私を見ていた。
『長谷部さん・・・薬研さんのこと、あまり叱らないで下さい。研究熱心でいてくれないと、この先どんな薬が必要になるか分からないし』
そう言うと長谷部さんは、自分はまだ叱ってはいない、寧ろ一期一振の方が薬研を部屋に引っ張って行ったんだと苦笑を見せた。
に「じゃ、僕たちは用を済ませてくるよ。お大事に」
石「食事が出来るまで、ゆっくりと休むといい」
立ち上がり襖を開けながら2人が言って、そのまま静かに部屋の外へと消えていく。
長「主、手拭いを濯ぎましょう。眠るのはそれからでも遅くはないですから」
おでこに乗せられた手拭いを長谷部さんが濯ぎ、ひんやりとした感触がまた訪れる。
その心地良さに小さく笑みを浮かべて、私はそっと目を閉じた。