第4章 懐かしい味と、優しい味
『あの、薬研さん・・・これって試薬って言ってたけど、私の他に誰か飲んだ経緯はあります?』
手のひらでコロンと小瓶を転がしながら、薬研さんの背中に問うてみる。
薬「大将の他にか?そのカタチになる前の、言わば試薬の試作品の時は山姥切に。あの演練の時だ」
・・・うわぁぁぁぁぁ。
じゃ、あの時の山姥切さんの悲痛な叫びの原因はコレって事だよね?!
ヘタしたら死ぬんじゃ・・・ん?
いや、私はそこは大丈夫か?
だって1回死んじゃってるんだし、きっとこの先、猛毒仕込まれたとしても死ぬ事はない。
苦しいのは、苦しいだろうけど。
なら、もしも万が一この怪しげな試薬が外れたとしても死ぬことはない。
『よし・・・飲むか』
小さな小瓶のフタを外し、口にする前にちょっとだけ匂いを嗅いでみる。
『あれ?なんだか甘い香りがしますね』
例えるなら、桃のようなさくらんぼのような香りがして、これならグイッと飲んでも大丈夫そうだと口をつける。
・・・と、安易な考えで飲み干せば。
『に・・・苦い!!!!!水!長谷部さん、お水!お水ください!!』
長「い、今すぐお持ち致します!!」
手入れ部屋を慌てて飛び出す長谷部さんを見ながら、薬研さんが甘い香りを付けたのに飲みにくいのか?なんて言いながら何かをメモしていく。
薬「この間それを山姥切に飲ませる時、あいつがせめて甘い香りでもあれば・・・と言ったから甘い香りは調合してつけたんだが・・・」
『や・・・薬研、さん・・・味、味も変えましょうよ・・・』
まるで罰ゲームでもしているかのような苦さに悶えながら言えば、薬研さんは香りだけじゃなくて味も必要なのか・・・と呟きながらメモを取っている。
『何を食べるにしても飲むにしても、香りと同じように味も大事・・・で、す・・・』
あれ・・・なんだか急に全身が暑くなってクラクラしてきた・・・
それに、何となく視界がボヤけて・・・る・・・
次第に重くなる瞼に逆らえず、ゆっくりとその目を閉じていく。
薬「大将なら、どんな味が好み・・・おい!大丈夫か大将!」
私を呼ぶ薬研さんの声も薄れて、私は泥のように重くなる体を動かす事も出来ずに、そのまま最後まで目を閉じた。