第3章 最初のお仕事
まさか、本家本元のお方がいるところで・・・それをやるとは思わなかったなぁ。
チラリ・・・と和泉守さんを視界に留めて、お父さんがここにいたら、きっと大喜びするだろうに。
あの人の事、凄く大好きだったから。
なんて、口端が緩みそうになるのを自覚しながら自分も腕を下ろして軽く息を吐いた。
とは言え、そんな人の前で私が真似事なんかしたら、後でこっぴどく怒られそうでもあるけど。
『あなたが私を、どれほどの評価で見ているか分かりませんが・・・これで、終わりにしましょう』
そう言いながら、まるで弓でも引くように、上段に構えていた腕をスーッと引き上げ、刃の向きを変える。
「おかしな構えをして見せるとは・・・気でも触れたのか?」
『それは・・・どうでしょう?』
相も変わらず大きく振り成す太刀筋を見切って、思い切り刀を弾き飛ばす。
「なっ・・・?!」
・・・終わった。
そう、気を緩めてしまった瞬間・・・足を蹴られて地べたに座り込む。
何事だと顔を上げれば、そこにはニヤついた相手が私を見下ろしていた。
「なかなかの姿だな」
『そこまで卑怯とは!』
刀を弾かれたからと言って、まさかこの勝負でそうまでするの?!
「卑怯とは人聞きの悪い。さっきも言ったではないか、ルール無用だと」
ズキズキと痛む足に、足でザッと砂を蹴りかけられたのを見て、余計に腹が立つ。
ルール無用と言うならば、この後この人がどれだけ卑怯な事を仕掛けてくるか分からない。
何か、何か怯ませる方法はないか・・・
そう考えた時、視界の片隅に和泉守さんが映り込む。
和泉守さん・・・か・・・そうだ、これならいける!
『チッ・・・女だからって随分とナメた真似を・・・だったらこっちも・・・』
上体を少し屈めて、さも悔しがる素振りを見せながら・・・地面に着いた手で握れるだけの砂をこっそり掴んで、その手を大きく振り被りながら相手の顔めがけて投げつけた。
『そぅら、目潰しだ!』
「ぅわっ・・・目が・・・この卑怯者め!」
あんたがそれを言うのかよ!と叫びたい気持ちを押さえつつ、転ばされた時に手から離れた刀を手早く拾って立ち上がる。
『卑怯者とは人聞きの悪い・・・これはルール無用なのでしょう?』
嫌味たっぷりの笑いを見せて、一歩、また一歩と近付いて行く。