第3章 最初のお仕事
それだけはどうしても、許せない。
この気持ちが、妙な正義感だと笑われても構わない。
だけど、こんな卑怯者には屈したくない。
ただ、それだけだから。
胸元に押し込めたあった手拭いを出し、切り裂かれた袖口の上から傷口をきつく縛り、とりあえずの止血を施して、汚れた手を袴で拭ってはひと呼吸おいて前を見る。
『あまりこういう事は好きではないのですが、最後までお付き合いを』
出来るだけこちらの考えを悟られないように、精一杯の微笑みを見せれば、どうやらそれが強がりに見えたのだろうか向こうは鼻で軽くあしらうように笑い返し、その手の中の物を握り直す。
「お前の技量は既に分かっておるが、まぁ良いだろう。それ以上キズモノにならないようにお遊び程度に相手をしよう。ただし、先程の約束事は忘れるなよ?」
『承知しております。約束事は、お互いに必ず果たしましょう。それから、どうかお遊びなどと言わずに全力でお願いします。じゃないと負けた時、言い訳されてしまうかも知れませんから』
柄にもなくウフフと笑って見せて私も刀を掴み、向き合う。
負け時に言い訳されたら、つまらないから。
お互いに本気で向き合ってこその勝敗なら、見守っている周りの人達だって言い訳なんて許すはずもない・・・と、思う。
迂闊にも受けてしまったキズも早くなんとかしたいし。
っていうか、本当は泣きが入るほど痛いけど!
刀傷ってこんなに痛いの?!
腕をスパッと斬られただけでこれだけ痛いなら、さっきのにっかりさんの傷なんて魂が抜け落ちるほどの痛さのはずだよ!
鼓動と比例してズキズキと疼く痛さを逃すために、ゆっくりと大きく深呼吸をする。
まずはさっきみたいに打ち込んで来るようなら、それを返すのは難しいことではない。
相手はさっきと同じ刀を使うのだから、切っ先には要注意。
剣筋と足の運びはさっき嫌というほど見たから、惑わされることはない。
よし!と大きく頷いて、自分もさっきと同じように構え直す。
『では・・・お願い致します』