第3章 最初のお仕事
それに、ただ切り裂かれているだけじゃない。
『痛っ・・・』
その奥には同じようにスッパリと口を開き、腕筋に赤い流れを作りながら伝う痛みに驚き、思わずその場を手で押さえ片膝を付く。
長「主!!」
『なんともありません!』
長「ですが!」
『いいからこっちに来ないで下さい!』
私の様子を見た長谷部さんが声を荒らげるも、痛みを堪えながら同じように返す。
なん、で・・・?
刃先を潰してあるのは私も目視だけだけど確認はした。
なのに、どうしてこんな・・・?!
「おっと・・・掠っただけで傷を作るとは、何ともひ弱い」
咄嗟に避けたとはいえ、腕を掠められたのは事実。
だけど、いくら力の差があるとしても風圧だけでここまで切れる?
どう見てもそんな事を起こすような相手でもない。
「ふむ・・・やはり刀が汚れてしまったな」
「主様、こちらを」
近侍と思われる刀剣男士が懐紙を取り出し、それを渡すのを見て妙な事に気付く。
この近侍・・・こうなる事を予測していた?
そしてこの・・・審神者の言葉。
“ やはり汚れてしまった ”
これは今回だけがこうなったから出る言葉じゃなくて、まるで以前にも同じような事があったからこその、言葉。
何かが、おかしい。
だけど、その何かが分からな・・・・・・?!
事態をよく飲み込もうと見上げた先で、審神者が懐紙で刀をそっと拭うのが見える。
そしてその刀は・・・切っ先が研ぎ澄まされたまま?!
じゃあ、潰してあったのは腹の部分だけだったって事なの?!
『・・・んて・・・なんて卑怯な・・・あなたは、こんな卑怯な手を使って今まで他の審神者の刀剣男士を奪っていたんですね』
「卑怯とはまた、聞こえが悪い。刃先を潰してあるのとは言ったが、全てのとは言っておらん。それに、この勝負は勝つか、負けるか・・・それだけあるのみ。決まり事など、最初からなかっただろう」
1人動き回って汗だくになった額をギラつかせながら、相変わらずの気味の悪い笑いを浮かべて冷ややかな視線を私に落とす。
「さて・・・腕に傷を負っては刀は振れぬ。勝負あったと見ていいな?お前の負けだ、約束は、」
『ハッキリと勝ち負けが決まるまで終わりになんてしません』
ここで私がこのまま負けだと言えば、この人は今後もこういう事を繰り返す。