第3章 最初のお仕事
薬「ただ、これはあくまで俺の考えだが。あの時の主は、和泉守に反撃しようとすれば出来た。打ち込み続ける和泉守にも、それは分かってたはずだ」
反撃しようとすれば出来たのに、それをしなかったって・・・どうしてだろう?
そう思い始めた時、実は主から聞いた話だが・・・と長谷部が話し出した。
長「和泉守と手合わせで向き合った時、主は初めから受け続けるつもりでいたらしい」
「え、なんでっ?!」
思わず声に出せば、まぁ聞け、と話が続く。
長「主は俺たちの事をとても大切だから、自分の下手くそな剣術手習いで和泉守に怪我でもさせては申し訳ない。技術の差など誰が見ても分かる。だからといって無下に断り続けるのも和泉守に失礼だったからと手合わせを受けた。闇雲に木刀を振り翳して反撃するよりも、防戦に徹する方がお互いに安全だと考えたと言っていた」
和泉守くらいなら、ちょっとくらい変に当たっても大したことないと思うんだけど・・・主って優しいな。
「あ、じゃあさ?なんで主はあの人が同じ人間かって聞いたんだろ?怪我をするかも知れないって言ってたなら、状況はあんまり変わらないと思うけど?」
長「それはだな、大和守。主は相手が刀剣男士ではなく同じ人間ならば、相手の力量を見て攻守の組み立てが出来ると考えたようだ。直接聞いた訳ではないが、一期一振の言うように最初の立ち位置から殆ど動くことなく様子を伺っているのは、すなわち、そういう事だろう」
攻守の組み立てって言ったって、始まってからずっと守りに徹してるからまだ反撃するチャンスがないって事なのかな?
もし、僕だったら。
ずっと守ってばかりよりは、早めの段階で打ち伏せてしまった方が楽だと考えるけど・・・
でももし、今の主と同じ立場が沖田くんだったら・・・どうするだろう。
ふとそんな事を考え出した時、それまで鳴り続けていた剣の音が・・・止まった。