第3章 最初のお仕事
長谷部さんにそう言ってサッと足袋を履き、草履に足を入れた所で下を向いていた私の目の前に人影が落ちる。
『堀川さん・・・』
堀「主さん、これ・・・兼さんが渡して来いって」
差し出された堀川さんの手の中には、見覚えのある物が揺れていた。
『これって確か、和泉守さんが髪を・・・』
言いながら横を見れば、私に背中を向けたままこちらを振り向こうともしない和泉守さんが見える。
そしてその風にたなびく髪筋を辿れば、いつもはあるはずの物がやはりない。
うん・・・やっぱりそうだ。
この堀川さんが持っている赤い紐は、いつも和泉守さんが髪の一部を結留めている飾り紐だ。
『どうして和泉守さんが、私に?』
堀川さんの手にある飾り紐を見つめながら、その理由を聞く。
堀「兼さんからの言伝もあります・・・えっと、コホン・・・これは主にやるワケじゃねぇ、必ず返しに来い!・・・だそうです」
え、今のって和泉守さんのマネ?
堀川さんの意外な行動に笑いが込み上げるのを耐えて横を向くと、堀川さんが恥ずかしそうに頬を染めていく。
堀「わ、笑わないで下さいよ・・・僕だって現実味がある方がいいかなって思っただけですから。これ、確かにお渡ししましたよ」
私に突き出すようにそれを渡した堀川さんは、そのまま踵を返して和泉守さんの隣へと戻って行く。
『必ず返しに来い、か・・・和泉守さん、優しいなぁ』
クスリと笑って、受け取った飾り紐を髪に付けようと手をやれば、その手の中からスルリと飾り紐を抜き取られ、驚く。
次「アタシがやってあげるさ。アンタ不器用っぽいからね」
『すみません、ありがとうございます』
いつの間にいたのか、次郎太刀さんがするすると飾り紐を髪に結付けてくれる。
次「はい出来た。それにしても、ほんっとにアンタ無茶するんだから。でもまぁ、その正義感・・・アタシは嫌いじゃないよ。ただね、ひとつだけ言っておきたいのは・・・やっと来てくれた主が、またいなくなってしまうかもって思うみんなの気持ちは、分かって欲しいってコト。和泉守が言いたいのは、きっとそういう事も含まれてんのよ」
『・・・はい』
次「それじゃ、気合い入れてブッ飛ばして来な?刀なんて・・・振り回しときゃ当たるんだからさ?」
ニコリと笑う次郎太刀さんに背中を押されて、私は歩き出した。