第3章 最初のお仕事
「御指導、ねぇ・・・なるほど、そう来たか」
ククッ・・・と喉の奥で笑ったその人は、ひとつ頷いてからまた私を見た。
「では、挨拶代わりに私と力試しをしてみないか?ただし、ただ一戦交えるだけでは面白味もない・・・そうだな、もし私が勝てば、そこのへし切長谷部を頂くとしよう」
長谷部さんを?!
予想もしていなかった言葉に思い切り長谷部さんの顔を見てしまう。
長「主、そんな戯れは聞き入れる必要はありません」
『そ、そうですね・・・相手がどれ位の力量かも分からないし』
それに、どう良く見ようとしても・・・言い方は良くないけどちょっと・・・気持ち悪い相手だし。
今後の事も考えて無礼のないように断わる言葉を並べようと考え始めた時、馬の様子を見に行ってくれていた鯰尾さんと乱さんが慌ただしく戻って来る。
鯰「大変な事を聞いたよ主!」
乱「馬を見に行ったら、いろんな所のあるじさんがいてね!なんか、変な審神者に勝負を持ち掛けられたって落ち込んでたの!」
変な審神者に勝負を持ち掛けられた?
・・・それって、この人のことかな・・・?
鯰「それでさ!勝負に負けた審神者は自分の所の刀剣男士を取られたとか!変な人に目を付けられる前に早く本丸に戻ろ・・・あ・・・えっ?」
乱「もしかして、手遅れとか・・・? 」
うっかり大声で話していた2人が私と長谷部さんの向こうに見えた審神者に気付いて言葉を無くす。
『鯰尾さん、乱さん。その話は本当ですね?』
あわあわとする2人に静かに聞けば、2人して何度も首を縦に振り続けた。
なるほど・・・話は見えた。
要するに、新人審神者の所を回りつつ力試しと称して勝負を挑み、大事にしている刀剣男士を巻き上げて歩いている・・・そういう事か。
乱「あるじさん・・・聞いた話にはまだ続きがあるの」
『続き?聞かせて貰えますか?』
乱「あのね、その無茶な事を言う人は自分が確実に勝てそうな相手にだけ勝負を挑んでるって言ってたの。だから、審神者になりたての人ばっかりに声を掛けてるって」
『そう、分かった。話してくれてありがとう』
自分が勝てると思う人にだけ声を掛けるとか・・・あの人どんだけズルい人なの?!
考えれば考えるほど、腹が立って来た。
「勝負をしないなら、それでもいいが?その代わり、ろくに挨拶も出来んやつだと噂が立つだろうな」
