第3章 最初のお仕事
燭台切さんが少し屈んだ姿勢を戻すと同時に、ふわりとした浮遊感に包まれ慌てて燭台切さんに抱き着くような形で身を寄せた。
燭「ごめんね、ちょっと急過ぎた?」
『・・・大丈夫です』
思うより近くに聞こえる燭台切さんの声に顔が熱くなる思いをしながらも、既に馬上にいる鶴丸さんへと手を伸ばす。
鶴「よし。光坊、ありがとな・・・きみは手綱に手を添えるだけでいいよ。演練場までは俺が先導するから、落ちないように姿勢正しくな?」
『が、頑張ります』
長「では主、出立致します」
馬の横に着いて歩き出す長谷川さんにお願いしますと頷いて、背筋を伸ばして前を見る。
落ちないように姿勢正しく、か。
それも結構、難しいんだよね・・・やっとまともに進めるようになったの、つい最近だし。
姿勢に意識を向けてると歩調を整えるのが難しくて、今度は歩調に集中してると、前屈みになりがちで。
昔の武将さん達って、このスタイルであちこち駆け回ってたとか、凄いよ。
戦ともなれば、馬上で刀や槍を振り翳して戦ったり。
教科書のイラストとかでしか見た事なかったから、こんな風に馬術を教わってとか、ある意味とても凄い経験だけど。
そしてそれを私に教えてくれている人が、また凄い人だって言うのもあるけど。
いろいろな人が持ち主のお墓を掘り返してまで手に入れたがったっていう逸話を持つ鶴丸さん・・・
それだけ貴重で、敬われる存在だったと想像して、どれだけ凄い人なのかって緊張してたけど 、お会いしてみると鶴丸さんは驚くほどフレンドリーというか、なんというか。
そっと少し顔を振り返らせれば、目に飛び込んで来るのは鶴丸さんの真っ白な戦装束と・・・
鶴「どうした?」
『い、いえ・・・なんでもありません』
・・・目も眩むような、笑顔。
はぁ・・・鶴丸さんの何気ない笑顔は心臓に悪い。
そもそもみんなの戦装束姿は今日初めて見るけど、普段の格好を見慣れているせいか、なんかこう、ドキドキするというか。
実戦では使われず、神社仏閣に奉納されていた人も戦うとなると、いったいどんな戦い方をするのだろうかと・・・ちょっと楽しみではあるけど、演練なんだからもっと気を引き締めないとだよね。
少しのワクワクを胸に押し込んで、前方に見えて来た演練場を真っ直ぐに見据えた。