第3章 最初のお仕事
❀❀❀ 燭台切光忠side ❀❀❀
『燭台切さん、見て?池に月が映ってる』
「星もキラキラしてるし、風も気持ちいい夜だね」
夜の庭を散歩したいからと長谷部くんを探していた主に、僕と入れ替わりで風呂場へ入った長谷部くんの代わりにって、主の歩幅に合わせてゆっくりと一緒に歩いている。
普段の僕は、内番以外は畑や勝手場にいる事が多いから、なんだかこうして主の隣を歩いているのが新鮮な感じがして、少し・・・ワクワクする。
『燭台切さん、今更だけど本当に良かったんですか?お風呂上がりだったのに、散歩に付き合って貰って』
池に掛けてある渡り橋の真ん中で足を止めた主が、まだ少し申し訳なさそうに僕の顔を見る。
「長風呂しちゃって、ちょうど風に吹かれたいなって思ってたから気にしなくていいよ?」
『なら、いいんですけど・・・あっ、鯉が跳ねた!』
会話の合間に跳ねた池の鯉に目を奪われ、楽しそうな顔を見せる主は、夕餉の支度をしていた僕の耳に届いた話とは違う顔をしていて思わず見つめてしまう。
手伝いをしてくれた短刀たちが話してくれたのは、昼間の稽古場での出来事で。
目の前にいるこの主が、まさか彼と向き合っただなんてびっくりしたのも事実だった。
乱「それでね、和泉守さんがあるじさんをギューってしたら、あるじさんびっくりして固まってた!そしたらいち兄と長谷部さんもびっくりして、和泉守さんに怒ってたの!」
「一期一振が、怒る?」
それは珍しい光景だったんだなと、任務中以外、短刀たちの前では穏やかな顔をしている一期一振を思い浮かべる。
五「いち兄が、お覚悟するって・・・」
「お覚悟?!それは・・・穏やかじゃないなぁ」
今度は前に一期一振と共に任務に出た時の彼を思い出して、いったいどんな騒ぎだったんだ?と乾いた笑いが出てしまう。
厚「でも、大将が稽古場から出てった後もいち兄にまた怒られてたよな?」
乱「それは和泉守さんがあるじさんの事を、ちっちゃくて柔らかかったって堀川さんに話してたからだよ。女の子とは言え、大事な主ですよ?って」
うん・・・一期一振なら、そう言うだろうね。
それにしても、そんな手合わせなら・・・
「僕も見てみたかったな・・・なんて」
『なにが見たかったんですか??』
つい、呟いてしまった言葉を主が聞き返す。