第3章 最初のお仕事
「短刀たちから聞いたんだ。君が今日、稽古場で凄いことをしたって話を。それで、僕もその場で見てみたかったなって」
隠す必要も嘘をつく必要もない事を話せば、主はちょっと困ったように眉を下げた。
『燭台切さんが期待しているような事は、なにもありませんでしたけど・・・ただ、和泉守さんに打ち込まれてただけですから』
「そこが凄いことなんじゃないかなって僕は思うけど?あの彼から1本取るなんて僕にも難しいよ。僕だって受けるのが精一杯な時があるからね」
これまでに何度か手合わせをした事があるから、その時のことを思い出して言えば主は僕を見て小さく笑った。
『燭台切さんが和泉守さんに打ち込まれるだけだなんて、そんなご謙遜を』
「謙遜なんかじゃないって。彼の手合わせは本番そのものだから、僕も結構・・・必死だよ?手合わせの相手が大太刀組なら、なおさら」
言いながら剣を振るう動きをして見せると、主は一瞬だけ目を丸くして、クスクスと笑った。
『そんな凄い組み合わせの手合わせなら、今度ぜひ時間を作って見学しに行こうかな?長谷部さんの座学を早く終わらせられたら、だけど』
長谷部くんの座学・・・それは確かに大変そうだと笑って、コホンと軽く咳払いをする。
「でも、もし君が様子を見に来てくれるなら、その時は僕も・・・かっこよく決めたいよね」
『はい、期待しておきます』
お互いに顔を見合わせて笑顔を向け合えば、離れた所から長谷部くんが主を呼ぶ声が届いた。
「さ、彼の所まで送るよ。僕が君を独り占めしていただなんてバレたら、長谷部くん拗ねちゃいそうだからね」
『そんな、独り占めだなんて・・・私が付き添いをお願いしたのに』
さ、行こうか?と軽く主の頭をぽんっとして、その手をそのまま背中に当て歩き出す。
長「主・・・俺を探していたと聞いて部屋へ行ってみればいなかったので探しましたよ?」
主を引き渡し事情を説明をすれば長谷部くんは待っていてくれれば自分が・・・などと零す。
「たまには長谷部くんの役割を僕と代わってくれてもいいんじゃない?ね、主?」
そう言って、ひらひらと主に手を振り歩き出す。
長「主?!俺ばかりでは何か不満が?!」
『え?!そ、そういう訳では・・・』
背後から聞こえて来るそんな2人の会話を聞きながら、僕は緩む口元を隠すことなく部屋へと戻った。
