第3章 最初のお仕事
お風呂を済ませて自分の部屋へ戻ってから、退屈凌ぎになるからと薬研さんが貸してくれた医術の本を開いてみる。
けど、読み始めてすぐに本を閉じた。
寝る前に読む本ではなかった・・・
詳しく解説文と挿絵がついてるから、ちょっと、まぁ、うん・・・夢に出そうだったから。
応急処置くらいなら私もおじいちゃんに教わってたからなんとかなるし、本格的な治療だとかになったら、それこそ薬研さんにお願いする方が安心確実だろうしね。
ただ、怪しげな新薬を暇さえあれば作っては、誰かに試してるって話も、ちらっと加州さんから聞いたけど。
退屈凌ぎの本はいま読めないし、いよいよ手持ち無沙汰になってしまった事にため息を吐いて窓辺に寄れば、次郎太刀さんたちの楽しそうな笑い声が聞こえて来て、今夜もまた酒盛りをして楽しんでるんだと羨ましくも思う。
私は誰かにいて貰わないと、夜庭の散歩に行く事も出来ないから。
・・・あ、そうか!
誰かにいて貰わないとダメなら、誰かにいて貰えばいいんじゃん?
そうと決まれば、さっそく長谷部さんにお願いしてみよう!
控えめなガッツポーズを繰り出して、善は急げとばかりに長谷部さんのお部屋に向かうも・・・
『お風呂、ですか・・・』
燭「ちょうど僕と入れ替わりだったから、間違いないよ」
途中の廊下で会った燭台切さんに聞けば、長谷部さんは今さっきお風呂に入ったばかりだから暫くは出て来ないと聞いて肩を落とす。
燭「あ、でも急ぎの用なら僕が呼んで来ようか?」
『いえ、大丈夫です。ただちょっと、庭を散歩したかっただけなんで』
燭「・・・庭を?」
湯上りでまだ濡れた髪をタオルで押さえながら、燭台切さんがその視線を庭へと流す。
『ちょっと手持ち無沙汰だったから、散歩したいなって。でも私、長谷部さんから建物から外は敷地内であってもひとりでうろうろしてはダメだと言われてて。でも、お風呂なら仕方ないですから』
長谷部さんならきっとお風呂に入ったばかりだとしても、私が頼めば余程の事でなければ同行してくれるのは分かってる。
だからこそ、お風呂くらいはゆっくりのんびりとして欲しいからと燭台切さんにも言えば、黄金色の瞳を細めた。
燭「そういう事なら、そのお役目って僕じゃダメかな?」
『え?でも、燭台切さんこそお風呂上がりだし・・・』