第3章 最初のお仕事
薬研さんのいうもしもの事って・・・・・・想像するのやめとこう。
長「主、気が進まないのであれば今からでも俺が和泉守に・・・」
気が進まないってのは、大正解ではあるんだけども。
心配そうな長谷部さんに、大丈夫ですよと笑いかけては、木刀を握り直して縦や横に軽く振ってみる。
・・・おっと?
振り下ろした感じを何度か確かめて、その懐かしい感触に少しだけワクワクしてしまう。
深い事は何も考えずに向き合える相手だったら、良かったのになぁ・・・なんて考えながら、最後にヒュッと振り払って和泉守さんの前に立つ。
『和泉守さん、宜しくお願いします』
そして是非とも、物凄くお手柔らかにお願いします・・・なんて心の中で追加しながら、大きな深呼吸をして構えを整える。
和「へぇ、そう来たか・・・ま、いいけどな」
私の攻めが通用するわけがないのは自覚してるから、せめて受け止めるだけでもと構えたのはいいけど、和泉守さん程になれば、それを見ただけでバレてるし。
和「そんじゃ、始めるとすっか」
そう言って僅かに口元を緩ませた直後、和泉守さんはキリッと表情を引き締めた。
お互いに構えて、お互いにその動向を見張る。
っていうか!
まだ何もしてないっていうのに、流れ伝わる和泉守さんのオーラが凄まじいよ!
一瞬でも気を抜いたら、そのオーラに飲み込まれそう。
向かい合ったまま動かず、これは先にこっちから踏み込んだ方が得策か?と思った時、僅かに空気が動き出す。
・・・来る!
サラリと和泉守さんの髪が揺れたと同時に、一気に間合いを詰められ、一刀目が振り払われる。
早い・・・!
『・・・っ!!』
それに・・・重いっ!!
咄嗟にそれを受けつつも、手のひらにビリビリと伝わるその一刀の重さに冷やりと汗が流れる。
和「やるじゃねぇか」
甲高い音を響かせながら何度も打ち込んでくる和泉守さんの打ち込みを、切り返す余裕もなく受けるだけで精一杯でいると不意に手元が軽くなる。
なに?と視線だけで見上げれば、そこには木刀を大き
く振り翳す和泉守さんが目に映り、それに気付いた時には一瞬遅く・・・あっという間に私の手から木刀が弾き落とされた。
『ま・・・参りました・・・』
小さく言った私の声が、静まり返った空間に大きく広がっていった。