第3章 最初のお仕事
あそこまで肩で息をする状態になったら、笑顔なんて出ないよ私!
むしろ無表情で転がっちゃうよ?!
和「あれはうっかり本気になっちまっただけだ」
長「だからこそ許可出来ないと言っている。それほどまでに手合わせがしたいと言うなら、俺が相手になってやる」
どうしても譲らない和泉守さんと、それをどうしても阻止してくれようとする長谷部さんがバチバチと火花を散らし始めた時、一期一振さんが間に入ってそれを宥め始めた。
一「ひとつ提案なんだけど・・・その役目、私ではダメだろうか?」
・・・宥めてるわけじゃなかった!
長「一期一振、なにを言い出すんだ」
一「和泉守は主の技量を知りたい、けど長谷部は主に危ない事をさせたくはない。だったら間を取って私が和泉守の代わりになれば、主が怪我をする事もないだろう?それに私なら、うっかり本気になったりしないよ」
いやいや、問題はそこじゃないんですけど。
こんな騒ぎに発展するんなら、あの時飛んで来る木刀を回避したりしないで一撃食らっておけば良かった・・・
だけどそうしたらこの騒ぎは違う大騒ぎになってたかもだけど!
でも、この騒ぎを収めるには私が腹を括るしかないかも知れない、よね?
まだ話し合いをする傍らで、あぁ、私・・・明日の朝日が拝めるだろうか・・・と天井を仰ぎ見ては大きなため息を吐いた。
『分かりました、お引き受けします。但し・・・和泉守さんのご希望に沿えるか分かりませんが・・・』
長「なにを言ってるんですか主!」
『大丈夫です。手合わせですから、死ぬほどのケガをする事はないでしょうから。でも、もしもの時は長谷部さんも一期一振さんも・・・私を助けて下さいね?』
一応、秘策がない訳じゃない。
過去の実戦歴から察するに和泉守さんと真っ向勝負なんてしたら、瞬殺されてしまうから。
けど、それで和泉守さんが納得してくれるかどうかは、別の話になるけども。
和「主がいいってなら、文句はねぇよな?」
機嫌のいい顔で長谷部さんを仰ぐ和泉守さんは、そうと決まれば早速始めようじゃないかと長い髪を翻しながら道場の真ん中へと歩き出す。
『無事で終わりますように・・・』
そんな和泉守さんを見て呟けば、薬研さんが私の肩にぽんっと手を乗せる。
薬「もしもの事があったら手入れ部屋は貸切にしてやるぜ、大将」