第3章 最初のお仕事
夕飯の前に相談があるって言われて長谷部さんが来るのを自室で待っている。
かすり傷みたいなものだから大丈夫だって言ったのに、まさかあんなに真剣な顔で長谷部さんに見守られながら薬研さんに手当てをされるとか。
ピリピリとまだ痛む膝をそっと押さえながら、薬研さん・・・消毒だとか言いながらも容赦なかったなと苦笑を浮かべてしまう。
あの薬研さん自作だとかいう消毒液は、いったい何をどう調合して作られてるんだろ?!
みんながいる手間、舐めときゃ治るって言ったけど、実は薬研さんに消毒されてる時、結構痛かったんだよね。
痩せ我慢状態で処置を受けていれば、薬研さんは笑いながら・・・
薬「へぇ・・・呻き声ひとつ上げないとか、なかなかやるな、大将」
だとか言ってたけど!
呻き声どころか息の根止まるかと思ったよ・・・
とにかく今後は擦り傷、切り傷、とにかく傷に関する事だけは特に気を付けよう・・・うん。
ひとりで何度も頷いていると、静かながらも階段を上ってくる足音が聞こえて、部屋の前でその足音も止まる。
長「主、宜しいですか?」
かけられた声にどうぞと返し、長谷部さんが入って来るのを待つ。
長「では、失礼致します。夕餉までいま少し時間がありますので、茶をお持ち致しました」
『ありがとうございます。長谷部さん、どうぞこちらへ』
向かい合って座り、ほわりと香り立つお茶をひとくち飲んでから長谷部さんの顔を見て、一旦、湯呑みを置いた。
『それで、長谷部さんの相談って言うのは?』
長「はい、その事なんですが・・・」
なんでも知り尽くしている長谷部さんが私に相談だなんて、いったい何事だろうと暫し耳を傾けていれば、定期的に行われている演練と呼ばれる、言わば出稽古のような行事への参加をどうするかという、相談と言うよりは私にそれに参加するか否かの決をして欲しいという事だった。
『なるほど・・・私がここに赴任するまでは審神者が不在と言うことで参加をしていなかったって事ですね?』
長「えぇ、そういう事になります。演練には、必ず審神者が同行するという決まりがありますので」
『なら、今回からは特別な用がない限りは参加でもいいのでは?私はまだまだ学ぶ事が多い身ではありますが、そんな私でもお役に立てるのであれば参加しましょう』