第1章 明日って必ず来るものじゃなかった
ひとつひとつの展示刀をゆっくりじっくりと眺めて行く。
もちろん、規制線が張ってあるから極端に近くには行けないけど。
どんだけ見てるの?なんて言う友達に袖を引かれながらも、その日はずっと展示されている刀を存分に眺めては心の洗濯をした。
「夕飯食べてく?って言いたいトコだけど、この後バイトあるんだよね···」
『ゴメン、そんな日に付き合って貰っちゃって』
「全然!親友のヲタク趣味には長年の付き合いで慣れてますから?」
は~い、お世話になってます!とか話しながら、これから帰るねとお母さんにLINEを送る。
「あ···ちょっとこのニュースって、ここから近いんじゃない?」
見て?と画面を向けられ覗くと、近くで通り魔事件発生のニュースがあった。
『これ、駅の反対側じゃない?』
「だよね?!しかも事件起きたばっかじゃん!通り魔だとか、ヤバくない?」
『まだ犯人逃走中だ···』
「怖いし早く帰りなよ?私も急いでバイト先に駆け込むからさ」
『自分こそ気を付けてよ?じゃ、また明日ね?』
じゃあね~!とお互い手を振って、通り魔事件だとか身近で起きるなんてとため息を吐きながらスマホをポケットに押し込んだ。
その、直後···すれ違う人にドンッとぶつかってしまい、慌てて謝るも···脇腹に鈍い痛みが走って座り込む。
なに···?
なんか今···違和感が···
恐る恐る痛む場所に目をやれば、そこから溢れ出す赤い···
なによ···これ······
「あ、そうだ!言い忘れたけど···えっ···和奏?!」
友達の声に振り返るも、激痛に変わる場所を押さえ込み、その場に倒れ込んだ。
「和奏?!···和奏ー!!!!!誰か救急車呼んで下さい!!!和奏しっかりして!!」
泣きながら私の体を揺する友達の声が、少しずつ遠くに聞こえてくる。
ウソ···もしかして私···通り魔に?
ゆっくりと周りを見れば、はるか遠くに走り去る···私とぶつかった人の後ろ姿があって。
すぐ横には、真っ赤に染まったナイフが落ちていて。
それから···私と友達を囲む見知らぬ人達の姿。
それも次第に薄暗くなっていって···続く痛みと、重くなる瞼に逆らうことが出来ず···目を、閉じた。