第3章 最初のお仕事
『長谷部さん!!・・・うきゃぁぁぁぁぁ!!』
バンッ!と大きな音を立てながら開いた襖の前に立つ人影に驚き、おかしな悲鳴を上げてしまう。
長「お呼びでしょうか、主」
『って・・・長谷部さんか・・・じゃなくて!なんでそんな所に立ってるんですか!てっきりどこかへ行ってしまったかと思ってたのに、びっくりしたじゃないですか!』
息継ぎを忘れる勢いで言えば、長谷部さんは不思議な顔をしたままヘナヘナと座り込む私を見て小さく笑う。
長「暫くの間、近侍は俺がとお話したと思いますが?」
いや、そういう事ではなくて・・・まぁ、いっか?
『近侍は長谷部さんがって言うのは分かってます。けど、まさか襖の正面に立っているとは思わないじゃないですか・・・』
長「正確には、主に声を掛けようとしていた所に、主が飛び出して来たんですが?」
そう言われると返す言葉が見つからない。
『すみません、そそっかしくて・・・それよりも、長谷部さんがちゃんと戻って来てくれて良かった』
長「良かった、とは?」
『だって長谷部さんがいないと、いくら本丸内でもひとり歩きはダメなんでしょう?それに、長谷部さんに謝らなきゃと思ったので』
長「謝る?俺に・・・?それは何故です?」
『せっかく長谷部さんが色々と学びを説いてくれているのに、よそ見をしたり欠伸を噛み殺すとか・・・だから長谷部さんは怒って教えるのをやめてしまったんじゃないかと思って』
そう言えば長谷部さんは珍しく声を上げて笑い出し、それなら謝罪は必要ありませんと言った。
長「先程も言ったように、俺は鬼ではありません。こんな天気のいい日に、ましてや庭から短刀達がはしゃぐ声がしているとなれば、主もそれが気になるんじゃないかと思っただけです。主は短刀達と仲がいいですからね」
一期一振さんから弟達と聞かされ、ひとりっ子の私はそれを聞いて自分にも弟がいたらこんな感じなのかなと、一緒に遊んだりしている事を言ってるんだろう。
実際は短刀さん達は子供の様な姿をしていても、私よりずっとずっと年上で・・・神様なんだけども。
長「さぁ、短刀達が庭で主が遊んでくれるのを待っている様です。行きましょうか」
立てますか?と差し伸べられた手を借りて立ち上がり、キャッキャと楽しそうな声が聞こえてくる庭へ長谷部さんと向かった。