第2章 新しい生き方
さり気なく後ろ手で閉めちゃったから、完全には閉まってなかったんだ・・・
『私がお行儀悪くしてたからいけないんだけど、勝手にお散歩したら五虎退さんが心配するよ?』
そう言って頭を撫でれば、虎さんは目を細めて気持ちよさそうにしている。
カワイイなぁ・・・それに、癒される。
そんな姿に何度も撫でていると、急に声を掛けられて肩を跳ねてしまう。
「主・・・おひとりで外に出るとは、何かありましたか?」
『っ?!・・・びっくりした・・・』
驚きながらも振り返れば、そこに立つ人はとても穏やかな空気を纏っていて、率直に言ってしまえば、綺麗な人・・・そんな言葉が当てはまるような容姿でもあった。
「これは失礼致しました。五虎退の虎を追って来てみれば、主がおひとりだったので」
幾つかの言葉を交わし名を聞けば、その名は私でも知っている名前で、長谷部さんに続いてこの名もあるとは、やはりここはそういう場なのだと実感してしまう。
一「加州が言うように、ここは安全だといえばそうではありますが・・・ただ、おひとりでいるのはいけませんよ?」
『加州さんがここならそうそう危険な事はないと言っていたので大丈夫かなって・・・でも、次からは気を付けます』
私が言うと一期一振さんは是非そうして下さいと微笑んで、それなら今は私がお側におりますからと、またふわりと微笑み返す。
それからも少しお喋りに付き合って貰い、不意に聞かれた事に戸惑いながらも答えれば、一期一振さんはなぜか微笑みの向こうに悲しげな表情を覗かせた。
『あっ・・・えっと、ですね。誤解のないように言っておきますけど、決してここでの生活が嫌だとかはないんですよ?ただちょっと、ホントに急な話だし、まだ来たばかりなので戸惑っているっていうのも本心です。だからこそ、明日から長谷部さんにご指導頂く感じで・・・』
若干しどろもどろになりながらも説明すると、それをどう捉えられたのか一期一振さんは穏やかな微笑みを浮かべながら聞いてくれていた。
一「実の所、私もここへ顕現されてからはまだ日も浅いんです。とは言っても、数年は経ちますが・・・その年月はきっと、主のように人としての時間の流れとは違いますから、まだ来たばかりと言うのが当てはまるでしょう」