第2章 新しい生き方
❀❀❀ 一期一振side ❀❀❀
五虎退の小虎が主を驚かしたと騒ぎが起こり、弟の失態ならば私も一緒に謝らなければと思うより早く・・・着任したばかりの主がそれを止めるのに気付き様子を見守れば、ここにいる誰もが予想もしなかった終わり方を見せた。
本来ならばそこまで怒る事がない彼が、今日はやはり新しい主のお披露目だと言うこともあって普段より強い物言いになってしまったのだろうと、騒ぎが静まっても涙目になっている五虎退を側に呼び、ひとつふたつと頭を撫でてやった。
一「もう済んだことだから泣かなくてもいいよ、五虎退」
五「でも、僕がちゃんと虎くんを見てなかったから・・・」
一「今度から気を付ければいいだけの事だよ。幸い新しい主も、少し驚いただけで大丈夫だと言っていたんだから。それでも気にするというのなら、私も一緒に謝りに行ってあげるから。さ、気を取り直してこれを食べてごらん?」
五「いち兄・・・」
肩を落とす五虎退の口に、宴の為に用意された菓子を摘んで食べさせれば、その甘さに漸く五虎退に笑顔が戻る。
次「まーったく、一期一振は弟に甘々なんだから」
側でそれを見ていた次郎太刀がカラカラと笑いながら、五虎退の頭を撫でる。
次「ま、アンタも気にしなくて平気。五虎退の虎たちが誰彼構わず噛み付くわけじゃないのは、みんな分かってんだからさ?それより一期一振・・・その噂の虎が外に出て行ったけどいいのかい?」
ほら、あそこ・・・と次郎太刀が指差す方を見れば、少しだけ開いていた襖から五虎退の虎が一匹そろりと抜け出すのが見えた。
五「虎くんが・・・すぐ追いかけないと!」
「私が行くよ。五虎退はここで待ってなさい・・・ほら、まだたくさん菓子があるから。薬研、ちょっと五虎退を頼むよ」
近くにいた薬研にその場を頼み、早く虎を捕まえなければと出て行った襖に近寄れば・・・
『あれ?キミはさっきの虎さん・・・ダメだよ勝手に出て来たら。長谷部さんに見つかったら、また怒られちゃうよ?』
・・・主が外にいるのか?
そっと覗き見れば、誰も供を付けずに主は一人で縁側に座っていた。
こんな夜に、主だけで外にいるなんて。
本来ならば主を一人にするなんて有り得ない事だろうに・・・ましてや主は、このお披露目の宴の主役ではないか。