第2章 新しい生き方
言われるがまま、されるがままの時間だけが過ぎていく。
加「よし、あとは···紅か···あ、これなんていいんじゃない?長谷部、どう思う?」
長「そういう事は俺には分からん···加州に任せる」
加「そう?じゃ、決まりね」
妙に機嫌よく、加州さんが私に紅を引いていく。
···けど!
か、顔が近い!
そしてなんかくすぐったい!
加「ちょっと。動かないでよ、はみ出したらやり直しなんだから」
『す···すみません···』
ぞわぞわする感触に耐えて数秒後、目の前で加州さんがにこりと笑う。
加「出来た。どう?可愛く出来たでしょ?」
手鏡を向けられて覗けば···そこに写るのは自分じゃないような気がするくらい綺麗にメイクされた私で。
『凄い···ちゃんとしたことなかったけど、私ってメイクしたらこんな感じになるんだ?』
加「ホントはもっと可愛くデコっちゃったりしたいんだけど···今日のところはこんな感じで」
デコるって、なにをするつもりだったんだろう。
そう言えば加州さんの指先も、綺麗に色が塗られていて。
加「あぁ、これ?今日の爪紅の出来は凄くいいでしょ?」
『爪紅···』
この世界では、マニキュアの事をそう呼ぶのか···
『とても綺麗だと思います。今度機会があったら私もお願いしてみようかな?』
加「ホント?じゃあさっそく今から爪紅塗っちゃう?」
カチャカチャと道具の様なものを取り出そうとする加州さんを見て、長谷部さんが小さく咳払いをする。
長「···加州」
加「はいはい、分かってるって。主、今度ホントに爪紅やろうね?」
にこっと笑う加州さんに、ぜひ!と笑って返してから長谷部さんへと視線を移す。
『あの、長谷部さん。お待たせしました』
長「では主。早速ですが広間に集まっている皆の者の所へ、この長谷部がご案内致しましょう」
なぜそこを強調する?と疑問に駆られたけど、それはきっと長谷部さんがお世話係だから?と自己解決をしてお願いをする。
正装、と言われる和装はなかなか歩きにくく、部屋を出てからも何度か躓いては、長谷部さんや後ろを着いてくる加州さんの手を借りながら、広間へ続く長い廊下をゆっくりと歩いて行った。