第5章 降り止まない雨はない
太「分かりました。一時、私が預かりましょう」
渡した御守りを懐深くに仕舞うと、太郎太刀さんは振り返って長谷部さんたちを見た。
太「そろそろ長谷部が痺れを切らす頃合いでしょうから、皆の元へ参りましょう」
『・・・ですね』
こっそりと笑いあって、私たちは長谷部さんが待ち構える場所へと足を進めた。
『お待たせしました。これから向かう先は危険が伴う場所だと、こんのすけからも聞かされています。皆さんも無理せず、全員揃って戻って来て下さい』
長「主の仰せのままに。ではこれより時空の壁を開きますので、主は少しお下がり下さい」
言われた通り数歩さがり、長谷部さんが装置をカチカチと回して目的の場所へと設定する。
初めて見るその光景に、ここへ来た時にいろいろ散策した時に見たこの世界にあるものとしては不思議だと思った物が、そういう使い方をするんだと息を飲んだ。
間もなくして陣を囲った円がキラキラと光り始め、目を覆いたくなるほど白く光るとみんなの姿が次第に薄くなり、やがてその光に吸い込まれるかのように消えてしまった。
『どうか、皆さんご無事で・・・』
祈るように胸の辺りで手を握り合わせ、その場に漂う不思議な空気が日常のそれと変わらなくなるまで願い続けた。
以前の演練を思えば、直ぐに治るとは言えど怪我をして痛い思いをしている姿を目の当たりにした。
だけど、今回の場合はここへ帰ったから直ぐに傷が治る訳ではないと長谷部さんに聞かされている。
それに、その傷を率先して治療してくれる薬研さんも一緒に出向いているから、もしその薬研さんまでも負傷してしまったとしたら治療を施す人はいなくなってしまう。
単なる擦り傷くらいなら私もお手伝いする位の事は出来るけど、演練の時のにっかりさんの様に深い刀傷となればオロオロしてかえって邪魔になってしまう。
誰もが無傷で帰って来て欲しい。
何度もそう祈りながら、青く広がる空を見上げ続けた。