第5章 降り止まない雨はない
❀❀❀ 燭台切光忠 side ❀❀❀
あぁ、また・・・
長谷部くん達が出立してから10日程経ち、その日からどことなく表情を曇らせることが多くなった主を何度か誘って畑に野菜の収穫へと来たけれど。
初めの内は楽しそうに食べ頃の野菜をひとつひとつ丁寧に収穫していたけど、時折ああして主は遠くの空を見上げては悲しそうに息を吐く。
最初の頃はどうしたの?とか、みんなは大丈夫だよって声をかけていたけど。
こう何度も手を止めて空を見上げる主の姿を目の当たりにすると、僕もどう言葉を選んでいいのか分からなくなる時がある。
どんなに小さい規模の戦場であっても、戦地へ赴くと言うのは危険が伴う。
自分もそういった場所へと出向いた事がある経験から、本来は安易に大丈夫だなんて言えるわけないのに。
どうしてもあの心許無い主の姿を見ると、励ましの言葉にならないと分かっていても、大丈夫だと言ってしまう自分が悲しい。
次「あの子、また空を見てる」
すぐ側にいた次郎太刀さえ、いつもの明るさを発揮出来なくなりつつある事に、僕は、そうだねとしか答えられずにいた。
もしこれが任務に行ったのが僕で、ここにいるのが長谷部くんだったら、きっと主を元気にしてあげられるんじゃないかとさえ考えてしまう。
次「あの子にとって初めての事だから仕方ないけど、だからと言ってあのまま放って置くのもどうしたものかって思わない?」
「えっ?あ、うん・・・そうだね」
くるりと振り向き様に言われ、情けない返事を返してしまう。
次「燭台切、アンタさ?これが長谷部だったら、もっと主を元気づけてあげられるんじゃないかとか考えてるでしょ?」
「どうして・・・いや、そうだね。彼だったら、主が元気になる方法を知っているんじゃないかって考えてたよ」
次「やっぱり。そうじゃないかと思ったさ」
両手に葉野菜を抱えたまま笑う次郎太刀に、主が元気なさそうだったから収穫に誘ったけど逆効果だったかな?と俯きながら言う。
次「アタシはそうは思わないよ。アンタがここへ連れ出して来なけりゃ、あの子はずっと部屋に篭って悶々とするだろうからさ。あの日から食事の量も減ったし、それなら収穫も一緒にすりゃ食べる楽しみも増えるんじゃないかって考えたんじゃないのかい?」
「それはそうだけど・・・でもやっぱり、僕じゃ役不足みたいだ」
