第1章 はじまりの夜
梨花は。
学生時代からの彼氏と同棲中。
そろそろお互いいい歳だし、結婚しないのかと以前聞いたら『子供できたらね』なんて、いかにも梨花らしい言葉が返ってきたっけ。
「で?」
「え?」
「どーしたの、その子」
「知らない、逃げて来ちゃった」
「…………あんた、ねぇ」
あ、手がワナワナしてる。
やばいなぁ。
梨花さま怒ると怖いのよ。
「自分の尻くらい自分で拭け!何歳だよお前!」
梨花の大声に、近くにいたお客さんが振り返る。
そりゃそーだ。
ただいま絶賛、清々しくも太陽サンサン、朝方なのだ。
「どーしよう」
「知らん!仕事だ仕事」
「梨花ー」
「うざい、まとわりつくな」
気に入らないものは全力で排除する。
それが梨花さま。
もちろん、親友だって例外ではないのだ。