第4章 はじまりの音と雨の予感
「時に峰岸さん」
「何よそれ」
「いやいやいや、さすがにもう馴れ馴れしく呼べないなって。」
「何言ってんの」
それ、ランチおごらされる前に聞きたかったセリフね。
「で、結局彼来たの」
「知らない」
「は?」
「鍵閉めて、10時には寝ちゃったもん」
わかる。
わかるよ。
今梨花がどんな顔してるかなんて痛いくらいに。
わざと泳がせた視線が意味もないくらい、合わせてなくても突き刺さる視線が痛いもの。
チュウチュウ吸い込んだ牛乳、あっとゆーまになくなっちゃいそうだよ。
「………気の毒」
「…………」
「あんないい物件すぐに売り切れちゃうよ?」
物件て。
人扱いくらいしよーよ。
ほめてんだかけなしてんだか。
「さんざん言ってたじゃん、梨花だって」
「あたしは嫌いじゃないよ、あの顔」
顔、強調したよね今。
「あのルックスで気も効くし、尽くす男も嫌いじゃないんだよねあたし。しかもお金持ってりゃ言うことないじゃん」
「持ってないよ湊」
どこ情報だ?
まぁ、稼いではいるよね確かに。
あたしよりは持ってるんだろーけどさ。
「峰岸さん」
「だから、何なのよそれ」
「うちの社長の名前知ってる?」
「知ってる」
「言ってみて」
片手に携帯いじりながら、ついでにもう片方は頬杖ついて。
いいなぁ。
美人は何やっても綺麗に見えるのね。
「朝比奈 賢一」
「うん」
「………いやいや、湊?朝比奈なんてそこら中いるじゃん」
「ほいこれ」
片手間に見せられたのは先ほどさんざんピ、ピ、やってた携帯で。
「…………」
「誰に似てる?」
嘘。
「…………湊」
「同じDNAの成せる技だよねこれ」