第4章 はじまりの音と雨の予感
ただ、恋をしたの。
打算も計算も、体裁もなんにも考えることなく。
ただ、目の前の男の子に恋をした。
好き。
それだけで突っ走れるほど若くもないし。
後悔先に立たず、とはよくいったもので、後先のことを考えてからじゃないと恋愛さえ出来ない。
………思ってた。
そう、ずっと思ってた、けど。
いざそうならざるを得ない状況が目の前にくれば、人間後先なんか考えずに行動するし。
考える時間すら惜しい。
年齢なんて関係なく、バカみたいなことだって躊躇なく出来ちゃうんだ。
「………」
「何それ、無反応とか、けっこう傷付くんだけど」
「違うよ。嬉しすぎて反応出来ないんだよ」
「じゃ反応なんてしなくていいから。もう1回、聞かせて」
「?」
『好き、って』
ぐい、と。
襟元を掴んで引き寄せて。
耳元で囁くように言葉にすれば。
一呼吸だけ置いたのち、湊はいつもの大好きな笑顔で。
両頬を包み込むように触れながら、額をコツン、とすりあわせて。
「好き、なぎ」
そう。
熱く視線を絡ませながら言葉を乗せた。
「大好き」
「………うん」
「なぎは?」
「さっき言ったもん」
「も、1回」
「無理」
「あれ、今さら照れてる?」
「………っ」
時間差で、ふつふつと沸き上がるもの。
確かにその正体はわかる。
しかも自分の職場で。
あんな大声で叫んで。
勢いに任せて告白とか。
恋は盲目、とはよくいったものね。
目が見えるようになった後のものすごい羞恥心たら、半端ないわ。
あーあ。
一生盲目のままのが幸せだったのに。
「なぎ、一個だけ訂正ね」