第4章 はじまりの音と雨の予感
べー、と舌を出す梨花に、複雑な表情を浮かべる湊。
まぁ仕方ない。
だって今湊が着ているのは清掃員の人たちが着るそれだ。
着飾ってもいなければ、特別目立つこともない。
そうか。
うん。
『そのまんま』でも十分だ、って。
梨花なりの、誉め言葉だ。
「わかりづらいなぁ梨花さんては。まぁでも、ここは彼女に感謝だね」
先ほど開けて入ってきた資料室。
今度は後ろ手に、湊が閉めた。
「なぎ」
「湊は?湊はなんで、ごめん?」
「え?」
「さっき言ったよ?ごめんて」
「ああ、あれね。………うん。なぎがあんな風に俺を呼んでくれて嬉しくて、勝手に舞い上がっちゃって。勝手に自惚れて、それで強引にあんなとこ連れ込んでキス、しちゃって。なぎとキスしてたら急に頭冷静になって。なぎからは何にも聞いてないのに、勝手にキスなんかして、だから」
『ごめん』
「でも俺、自惚れていい?ねぇなぎ、聞きたい、聞かせて。」
「…………」
「なぎはなんで、あんなことしたの?目立つの嫌いでしょ」
「湊に見つけて欲しかったからだよ」
「なんで?見つけて、どーするの?」
「こーする」
湊の唇へと自分のそれを重ねて。
ついでに。
そのまま舌を絡める。
背伸びして、なんとか届いた唇。
だけどそれは、激しさを増す度に足に力は入らなくなっていき、ついには背伸びしていたはずの足は、足裏が床全体にまでくっついた。
「…………好き」
激しいキスで乱れた呼吸は想定外だけど。
大丈夫。
このくらいならちゃんと言える。
「湊、好き」