第1章 はじまりの夜
「あー、いいな、ビール」
『ご飯作るよ』なんて偉そうに宣言したくせに。
こいつ、あたしの夕飯見事に平らげた。
しかもお風呂上がりに冷やしといたビールを開けた途端、これだ。
「子供はまだ駄目よ」
「子供じゃないもーん、ちゃんと去年成人式出たもん」
『去年』
の響きに思わず吹きそうになったビールを、なんとか耐える。
つまり。
21歳。
あーあ、犯罪者じゃない、これじゃ。
「俺にもちょーだい?」
「……冷蔵庫」
「やった!」
ぴょんぴょん跳ねながら冷蔵庫へと向かう彼は、先ほどまでの無表情だった彼とはあまりにかけ離れ過ぎていて。
すごく、なつっこい。
「ねぇ」
「湊」
「?」
「名前、湊だよ」
「………みな、と」
「うん、何?」
「………なんであんなとこいたの?」
「言ったよ?雨宿り」
「雨降ってないじゃない」
「降るよ、もーすぐ」
舐めるようにビールを一口口に含み、彼はそれをグビグビと一気に飲み干した。
「ちょっと……っ」
「うまーい」
ぷはー、と、手足を床に放り出した、その瞬間。
窓の外ではいきなりザザーッと、ものすごい勢いで雨が振りだした。
「え」
うそ。
窓を開けてベランダを見れば、雨の音が跳ね返ってうるさいくらいにこだましている。
「なんでっ?」
弾かれたように視線を投げたのは、もちろん彼にだ。
だけど彼はなんでもないように、あたしの飲みかけのビールへと手を伸ばしている。
「ちょっとっ!」