第4章 はじまりの音と雨の予感
確かにデビューは、紅くんだったのかもしれない。
だけどこの2年3年の間に出演している作品は、ふたりが入り交じってた。
そしてこの1年は、湊、だった。
いくら双子でも。
顔も、表情も。
声も。
全部似てたって瞳は違う。
瞳だけはね、絶対に誤魔化せないんだよ。
「……は……っ、誰にもバレてなかったのに」
自嘲気味に笑う湊は、片手で顔を覆い、それによって隠される表情。
「おかしいなって思ったの。あたしこのビルの社員証持ってたし、ずっといたのに。なんでふたりはあたしに気付かなかったのかなって。だから考えたんだ。時々ね、あたしのデスクにお花や飴が置いてあった。誰かが置いたんだってずっと思ってたけどあれ、あなたたちだよね」
「…………」
『誰のものかわかんないの、良く平気で飾るね』
『その飴毒入ってない?』
梨花には良くそうからかわれてた。
でもお花綺麗だったし。
飴も美味しかったから。
『自分の名前一言一句間違わずに言われたら普通怪しむよ?』
湊にも言われたよね。
確かに、その年になってさえも警戒心とやらが育ってないのは確かだ。
だけど。
だけど。
「今日朝ね、エレベーターの前に飴落ちてたの。もしかしたら湊がこっそり来たのかなって思った」
ふたりが入れ替わってたなら。
湊が紅くんの代わりに、ううん、あの日は湊の代わりに紅くんがいたのかもしれないけど。
でもだけど。
もし、なんかの理由があってこのビルの清掃員をやってたなら。
もしそれが湊なら。
湊も、ここに来たことがあるなら、って。
だから。
「………会い、たくて……っ、少しだけの可能性にかけてみたかったの」