第4章 はじまりの音と雨の予感
「凪?」
おろおろと回りを見渡しながら。
回りの視線に耐えきれずにいつの間にか彼はいなくなった。
それでも。
カッコ悪く叫び続けた。
だって会いたい。
会いたい。
会いたい。
湊に会いたいの。
「……みな…」
「しーっ、目立ちすぎだよなぎ」
再度、その名を呼ぼうと息を吸い込み、声帯から音が紡がれるだけの準備が整った、頃。
それは簡単に、後ろから回された大きな掌によって阻止された。
「…………」
「こっち、来て」
振り返り、思い切り抱きつきたい衝動を抑えて。
彼に誘導されるままに足を動かした。
見たい。
ずっとずっと、会いたかったの。
顔が見たいよ。
だけど。
彼はそれを許さない。
あたしの手を引いたままに、先へ先へと歩みを早めるから。
あたしからは、彼の後ろ姿しか見えないんだ。
怒ってる?
あんな目立つことして、迷惑?
いつもみたいに笑ってよ。
振り返って、笑いかけてよ。
沈黙に耐えられなくて。
意を決して顔を上げた先。
彼はバタン、と世話しなく個室のドアを乱暴に開閉して。
あたしが言葉を繋ぐ前に。
その唇を勢いのままに、塞いだんだ。
「ごめん、なぎ」