第4章 はじまりの音と雨の予感
「あのコは絶対、凪を諦めないよ」
コトン、て。
梨花がテーブルへと置いた紙袋。
「?」
首を傾げて梨花を見れば。
彼女は苦笑しながら中身を取り出した。
「あんたの郵便受けにね、引っ掛かってた」
紙袋から梨花が取り出したのは。
「…………」
あの日。
湊がうちを出ていったあの日。
湊が持っていった、2つのビールのうちの、ひとつ。
「………っ」
「だから言ったでしょ、諦め悪そうじゃん」
缶ビールには、マジックペンではっきりと、湊の文字。
『やっぱりなぎが預かってて』
『飲むから』
「……もっとましな字かいてよ」
両手で握りしめて、それを包み込むように額へと寄せた。
知らずに溢れて止まないのは。
暖かいそれの正体を、あたし今ならはっきりと言える。
あたし。
湊が好きだ。
両目から溢れでる暖かい涙。
それの正体に気付いたのは、じめじめとした季節が続く雨の日。
憂鬱なはずの雨の音が、なんでかな、すごく心地よく感じたんだよ。
ねぇ湊。
あたし、湊に伝えたいこと、たくさん出来たよ。