第4章 はじまりの音と雨の予感
拍手の中、促されるように椅子へと腰を下ろす湊は。
いつものボサボサ頭はきっちりと無造作に整えられていて。
ちょっとだけ長めの髪の毛は、緩くカールなんか、しちゃってる。
いつもTシャツにハーパン姿だったそれは、今やビシッと高そうなスーツを上品に着こなしていて。
屈託なく犬のように笑う笑顔は、まるで営業スマイルいわく、その存在を潜めていた。
「あたしは、あんたといた時のが自然で好きだったけどね」
『10日間の休養の予定が、2週間へと急遽延長され、ファンの方々からは体調を心配する声もあがっていますが』
『ええ、ご心配おかけしてほんと申し訳ありません。もうすっかり元気になりました』
「…………」
休養。
10日間の?
延長。
は、あたしの、せい?
『………それでは、映画、ドラマへの出演が決定している煌くんの、今一番欲しいものは、何ですか』
『欲しいもの………時間かな』
『忙しくて、ってことかな?』
『いえ、あと5秒間だけ、貰えば良かったかなって』
『5秒間、ですか?』
『5秒ってかなり短いんですよ、知ってます?』
『はぁ』
『あと5秒間だけでもあれば、セリフ入るのに、とか』
『ああ、5秒間だけでいいの?』
『そりゃ、貰えるなら無限に欲しいですけどね』
―――――なぎ、5秒間だけ俺にちょーだい?―――
「………っ」
『それでは、次回作への意気込みをどうぞ』
―――なぎ、好き―――
…………好き。
「……………」
そんなの今さら、どうすることも出来ないじゃん。
ばか湊。
「これさ、入れ替わったばっかにしては湊のやつやけに堂々としてるよね」