第4章 はじまりの音と雨の予感
飛び起きるように目覚めた視線の先には。
よく見慣れた自分の部屋。
窓の外はまだ、薄暗い。
「…………」
冷蔵庫からペットボトルを取り出して。
そのまま視線は真っ暗なリビングへ。
ソファーのはじっこに主張するように置かれた寝袋が、存在感を醸し出している。
湊がいなくなって。
1週間。
湊がいたのはたったの2週間、だったのに。
洗面台には歯ブラシが2つ刺さっていて、湊か使用していたコンタクトの保存液まで置いてある。
たったの2週間。
なのに部屋の中は、こんなにも『それっぽく』、なっている。
何度捨てようとしても。
体がそれを阻止するのだ。
「正体バレた途端いなくなるなんて、まるで昔のおとぎ話だね」
「……犬だったけどね」
「ああ、恩返しして貰ってないか」
「………」
「今度請求してくれば、『恩返し』」
「別に、命助けてないし」
「命の恩人なんでしょ、立派な人助けじゃん」
暗くじめじめとした季節。
空気だけじゃなくて外気は心までもじめじめと暗くさせていく。
そんなあたしの態度に、とうとう梨花がキレた。
「見て、凪」
「………」
苛つきを隠すこともせずに、目の前に差し出されたのは梨花の携帯。
液晶には、なにやら動画が映し出されている。
『本日のゲストは、復帰直後の朝比奈 煌くんです』
動画から流れてきた音声に。
体育座りしたままに、視線だけを動画へと向けた。
「化ければ化けるもんよね、人間」