第3章 いらない、朝
今度は悪びれもなくけろっと答える湊の頭を思い切りグーで叩いた。
「……って!だってなぎ、あり得なくない?知らない人が自分の名前一言一句間違えずに言ったら普通怪しむよ?警戒するもんだよ、普通」
「それは……」
確かにそれも、そうだ。
「なぎ天然だよね。俺が悪い人だったらどーするの?ほんとのストーカーならどーするの?」
「だって湊、雨降るの知ってたし」
「あれは偶然」
「へっ?」
あまりにも予想の範囲外の返答に、思わず出たのは自分でもびっくりするくらいの変な声。
「あの雨はほんと偶然。俺もほんとはずっげー驚いた」
「湊くん?」
「なぎも騙されるんだもん。よく今まで無傷でいられたよねほんと」
「……」
こいつ。
やっぱり追い出してやろーかな。
今すぐ。
「なぎに会いに来た日はね、あいつが、紅が死んだ日なんだ」
「え」
「病気だったんだよ、ずっと」
「………病気?」
「うん、胃にね、腫瘍があったの」
「え」
「若いのに、って、思うよね。喘息もそう、あの世界に入ってからだよ、紅の体がぼろぼろになったの。」
だから。
そう、小さく呟いて。
「やめろ、って、ずっと言ったんだよ。今すぐ止めて治療に専念しろって。だけど全然聞いてくれなくて。自分に自信を付けて、なぎに会いに行くんだって、聞かなくて。」
彼は一気にまくし立てると、そっと目を閉じた。
「だから、『自殺』」