第5章 たくみのせかい
大きな布切れを畳に広げて、木片と薪を置く。信玄さまが戸の中からカチャカチャと鳴るものを出してきた。
掛け軸よろしくクルッと広げると、鑿(のみ)や小さい鉋(かんな)、小刀なんかが現れた。
「信玄さま、これって…」
「文机や踏み台なんかを作るときに使うのさ」
信玄さまってDIY武将なのか。知らなかった。
「でも、薪はまだ使い道があるので分かりますけど、木片は…?」
「穴が空いたり大きな傷があったりすると出来栄えが良くないだろ?だから、細かくした木片と糊(のり)を混ぜ合わせたものを埋め込むんだ」
「…本格的ですね」
「俺が作ったものを誰かが使う。傷んだところを直しながら、また誰かに使われていく。……まぁ、生きた証みたいなもんさ」
「……信玄さま…」
うっかり何かが芽生えそうになった、なんてことはないけど、信玄さまの言葉はその言葉以上に重かった。
「……俺でも、作れますか?」
「手取り足取り教えるなら、野郎より天女がいいんだが」