第5章 たくみのせかい
パコーン!
パコーン!
斧を振り上げて薪割りをする信玄さまは、相変わらず男らしい。あっという間に丸太が倍の数になって積み重なっていく。
パコーン!
パコーン!
「ふぅ…」
「信玄さま、どうぞ」
「佐助か。ん、ありがとう」
手渡した手拭いでうっすらかいた汗を拭うと、抜いていた右肩を着物の内側へ滑らせた。
「ご精が出ますね」
「手慰みの準備運動ってところさ」
「手慰みの準備運動?」
ほら、こんなふうに
と、足元の木片を拾い上げる。
「薪割りをすると、端材が出る。薪と一緒に焚(く)べてもいいんだが、毎回集めて焚べるのも手間だろう?」
「そうですね」
「だから、手慰みに使うんだ。見に来るか?」
信玄さまの手慰みって何だろう?
忍びたるもの、誘われたら断れない。
「はい。お邪魔します」
「決まりだな」
信玄さまと二人、散らばった木片の中から使えそうなものを集めて、割ったばかりの薪も一本、部屋へと運び込んだ。