第2章 繰り返された惨劇
「娘を置いて逃げる父親がどこにいる!いい子だから、ソフィア、早く逃げるんだ!!」
「お願いだから、来ないでっ!!……ああっ!!」
ソフィアに的を絞って手を伸ばしていた巨人が、不意にハロルドに視線を移す。
巨人は新たな獲物を見つけて嬉しいのか、嬉々とした表情でハロルドに手を伸ばす。
「ソフィアっ、今のうちだ。早く逃げなさい。」
「ダメっ、おじさんも逃げて!」
「言う事を聞きなさい!いいか?ソフィア、お前は優しく、健気で、美しい。お前はまだまだ生きなくてはならない。」
巨人の指先が今にも近づいている。
「私はお前が何より愛しいのだ。そんな父の愛を分かってくれ。」
「ダメっ…、嫌よ、嫌ぁぁ!!」
「強くなれ、ソフィア!…ソフィア、よく聞くんだ。お前は誰よりも人々に寄り添ってやれる兵士になる。強くなれ、そして戦え。これから出会うお前の大切なものを守るために。」
「うああっ、ああああ!!」
「行け!走れ、ソフィア!!」
ドンッとハロルドに突き飛ばされた体は、その勢いのままに走り続けた。
バキャァ!ブチブチブチ!!
背後から骨が砕かれる音がする。肉が引きちぎられる音がする。
今、この身を突き動かしているもの。
それは憎しみだった。
それは巨人へではなく、ましてやこの世界に対してでもない。
憎しみの矛先は自分。
己の中で煮えたぎる黒い炎は、ソフィアの体を燃やし尽くさんばかりに肥大していった。