第5章 調査兵団入団式
「どうした、何か言い忘れたことでも?」
「はい。あまり大きい声では言えないので…」
ソフィアはエルヴィンの側によると、耳を貸してくれと頼む。
エルヴィンはその頼みに素直に応え、ソフィアの前に少し屈むような姿勢をとる。
「団長はさっきあまり無防備な姿を見せるなと仰いました。ならば団長もそのような姿を見せるのは私だけにしてください。」
「…どういうことだ?」
「今の団長、私服姿で、まだ髪の毛もセットされていない。そんな団長を見ると皆んな虜になってしまいます。
…それはちょっと嫌、です。」
ソフィアは顔を真っ赤に染めながら、エルヴィンの顔を見つめる。
そういう顔を不用意に見せるな、と言ったはずなんだが。
「…ハハッ、君には本当に敵わないな。」
エルヴィンは少し笑うと、自分の髪をクシャクシャと乱す。
そして、その手をそのままソフィアの頬に添え、ゆっくり囁く。
「君を困らせるのは私の本意じゃない。このような姿は君だけに見せると約束しよう。」
すると、ソフィアは嬉しそうに笑い、頬にあるエルヴィンの大きな手に自分の手を重ねる。
「約束、ですよ?」
「あぁ、約束だ。」
二人はそう言葉を交わすと、静かに別れた。
エルヴィンは執務室へと向かい、ソフィアは鍛錬を続けた。
時刻はまもなく五時を回ろうとしていた。