第7章 屯所怪奇事件篇
三.
「…全員高熱を出してます。」
山崎が隊士達の様子を綴った紙を土方に差し出す。
「…そうか、御苦労だった山崎。」
土方が紙を受け取り、山崎を外へと出す。
-昨夜、隊士の一人が酷く魘されていた。
どうせ、怪談話をしたから怖い夢でも見たのだろう、と思っていた。
-しかし、次の日に高熱を出した。
そして、其処から高熱で倒れる隊士が急増した。
そして、決まってうわ言の様に熱に侵されながら口に出す。
『呪いだ…黒い女が来る…っ!!』
と。
「夏風邪、ではねぇんだよな…集団で発症するなんて…。」
土方がぶつぶつ、と独り言を言っていると襖が開き、
「失礼します。土方さん、お茶入れてきました。」
と、雪乃が入ってくる。
「おぅ、サンキュ。」
雪乃が麦茶を机において、土方の手にある紙を覗き込む。
「夏風邪、ですか?」
と、外回りに行っていた雪乃は訊ねる。
土方は首を横に振り、
「いや、違うらしい。」
と、否定する。
-そして、一連の出来事を話した。
「そうだったんですか…今日は朝から外回りだったので気付きませんでした。」
「まぁ、気付かなくても其処は誰も怒らねぇよ。」
土方が雪乃の頭を髪を梳く様にして撫でる。
「けど…その黒い女ってなんなんでしょうね。少し不気味です。」
雪乃が少し肩を震わせながら言う。
土方も内心怖かったが、顔に出さないようにして
「大丈夫だ、俺が守るから。」
という。
-其の直後だった。
悲鳴と物が倒れる音がしたのは。