第8章 エルヴィンの憂鬱
「……リヴァイの部屋で寝ていたのか?」
「はい。…あ、でもちょっと寝たら具合良くなったんですぐ自室に戻りました。」
エマは話しながらリヴァイの部屋での出来事を思い出してしまいまたほんのり顔を赤らめたが、それは真向かいに座るエルヴィンにはよく見えていた。
「……そうか。」
エルヴィンはそんなエマの様子を見逃さなかったのだ。
彼はエマから視線をそらして小さく呟くと、黙って席を立った。
「?…団長?」
エマは不思議に思って名前を呼ぶが、エルヴィンは黙ったままエマの隣にドサリと腰を下ろす。
顔を覗き込めば、真剣な顔をしたエルヴィンがこちらを向き、視線が交わった。
その瞬間一
「だ、だんちょ…?!!」
エマはあっという間に、エルヴィンの逞しい胸の中に収まってしまった。
いきなりのことで訳が分からず、エマの身体は一瞬無意識に力が入る。
「……………すまない。
少しの間こうさせてくれないか?」
「は…はい………」
エルヴィンは抱きしめる腕の力を強めると、エマの肩に顔を埋めた。
ふわりと香るエルヴィンの匂いと彼の力強い鼓動に、頭がくらっとしてしまいそうになる。
エルヴィンの顔は見えない。
どんな顔をしているのだろうか。
回らない頭でそんなことを考えていると、背後でエルヴィンの声がした。
「……本当にダメだな。エマといると簡単に理性を保てなくなる。」
「…エルヴィンだん」
「何も言わないでくれ。今声を聞いたら抱きしめるだけじゃ済まなくなりそうだ。」
名前を呼ぼうとしたエマに被せるようにエルヴィンが言うと、エマは押し黙った。
いくら経験の乏しいエマでも、エルヴィンの言った言葉が何を意味するのかぐらいはすぐに理解出来てしまった。
鼓動の速さは最高潮に達して、エルヴィンに伝わってしまってはいないかとハラハラしてしまう。
だがこの状況を自分からはどうすることもできず、エマはエルヴィンの抱擁をただ黙って受け止めるしかなかった。