第8章 エルヴィンの憂鬱
「エルヴィン団長。」
「ん?」
「色々気遣ってくださってありがとうございます。その、団長も毎日お忙しいのに私にまで頭を回していただいて…」
エマは書類が山積みの机をチラッと見る。
「そんなことは気にしなくていい。私がしたくてやっていることだしね。」
申し訳なさそうにするエマに、エルヴィンは優しく言葉を返した。
「でもまぁ、確かに君の言った通り最近は特に忙しいな。少し疲れているのも本当だ。」
「やっぱり…そんな気がしてました。団長もたまには休まないと体壊しちゃいますよ?」
「そうだな、たまの休暇日ぐらいゆっくり休むとしようかな。」
「ぜひそうしてください。」
エマはエルヴィンに笑いかけると、エルヴィンもつられて頬を緩める。
「なら、もう少し私の戯言に付き合ってくれるか?」
「あ、はい。私でよければ…」
今の流れでエマはもうエルヴィンの執務室を去る気になっていたのだが、何故か彼に引き留められる形になった。
「ありがとう。私にとってはエマとこうして話す時間が休息のようなものだからね。」
「それならいくらでも付き合います!」
そういうことなら話は別だ。
エマ自身もエルヴィンと普通に話す分には楽しめていたから、もう少しここにいてもいいかなと思った。
エルヴィンはエマの返事を聞いてまた笑みを零すと、戯言、とやらを話し出す。
「しかし昨日は勿体ないことをしたな。」
「え?」
「途中で眠ってしまわなければ酔っぱらいのエマと絡めたのに、と思ってね。」
エルヴィンは心底残念そうな顔をしている。
「たぶん鬱陶しいだけだったと思いますよ…」
「そんなことはない。それにエマの介抱も私がしてやりたかった。リヴァイが部屋へ送っていったんだろう?」
エルヴィンは残念そうに続ける。
「はい、送ってくれたんですけど…その途中で寝ちゃって、私の部屋に辿り着けなくて結局兵長のお部屋で休ませてもらってたんです。」
エマがそこまで言うと、エルヴィンは目を丸くしてこちらを見た。