第8章 エルヴィンの憂鬱
「ありがとう、エマ。突然すまなかった。」
しばらくしてエルヴィンはエマを解放した。
心なしか僅かに切なげな表情を覗かせているように見える。
「いえ、大丈夫です。」
本当は大丈夫なんかじゃなかったが、こんな顔したエルヴィンを前にして正直に言えそうになかった。
エルヴィンは立ち上がり少し離れると、その辺にある資料を適当に捲りながら口を開いた。
「すまない。最近は二人きりになると君を困らせてばかりだな。」
エルヴィンはさっきから謝ってばかりだ。
「そんなことないです。団長の気持ちが落ち着くのなら私は…」
「気持ちが落ち着く…か。」
実際、エマを抱きしめたことで一旦は暴走しかけた自分の気持ちに歯止めがかかった。
しかし、エルヴィンは昨夜の話が気になって仕方なかったのだ。
泥酔のエマは部屋に戻る前に寝てしまったなら、リヴァイの部屋でも大人しく寝ていただけだろうと思いたい。
しかし、自分がリヴァイの立場だったらどうか…?
無防備に眠るエマを前にして、果たして自分を抑えられるのだろうか。
度合いは自分と比べてどうなのか分からないが、リヴァイもエマに好意を抱いているのには何となく気づいている。
リヴァイは何もしていないのか?
さっき、エマが話をしながら顔を赤らめたのは何故だ…
もしエマと何かあったのなら……
何を考えても憶測にしかならないのだが、どうも悪い方向に考えてしまう。
そうするとまた強い嫉妬心が芽生えそうになって、エルヴィンは無理矢理思考をシャットアウトした。
「団長?大丈夫ですか…?」
つい考え込んでしまっていたようで、気が付くとエマが心配そうにこちらを見つめていた。