第8章 エルヴィンの憂鬱
「それで、ミケさんはなんと…?」
エマはカップを静かにソーサーへ置くと、エルヴィンに問いかけた。
「流石のあいつも君が異世界から、しかも時空も超えて来たことまでは予想できてなかったようでかなり驚いていたよ。」
エルヴィンはその時のミケの反応が面白かったのか、思い出し笑いしながら答えている。
「流石にびっくりしますよね。でももし、嗅覚だけでどこから来たのか当てられていたら、あっちに帰るための場所も嗅ぎ当ててくれそう…」
「ハハハ!相変わらず面白いことを言うな君は。まぁでも、ミケにも何か力になれる事があれば遠慮なく言ってくれ。彼もそう言っていたから。」
「ありがとうございます。」
エルヴィンが豪快に笑って言うと、エマもつられて笑みがこぼれた。
「あぁ、それともうひとつ、」
「何でしょうか?」
「モブリットにも、君のことを話していいか?
エマはハンジともよく行動しているから、彼にも話しておいた方がいい気がしていてね。彼もきっと君のことは受け入れてくれるだろうし、口外するような奴ではないから安心してくれていい。」
確かにモブリットとは何かと接する機会は多い。
エルヴィンの言う通り身の内を知ってもらった方がハンジもやりやすいだろう。
「わかりました。お手数ですがよろしくお願いします。」
「ありがとう。」
エルヴィンは礼を言うと、紅茶は既に飲み干していたようで、お代わりの一杯を注いでいた。
こっちの世界で自分のことを知る人間が増えるのは、エマにとっては嬉しいことだった。
自分のためとはいえ、隠し事をしていると誤魔化したり嘘をつかなければいけない時もあり、その度に少し後ろめたい気持ちになってしまっていたからだ。
それに本当の信頼関係を築きたいなら、隠し事なんてない方がいい。
エマはこの世界でも、出会った人とはできる限り本物の信頼関係を築きたかったのである。
…でも中にはこんな自分のことをよく思わない人もいるだろう。
するとやはり自分のことは、エルヴィン達に任せておいた方が安心だとエマは思った。