第8章 エルヴィンの憂鬱
エルヴィンは短い笑い声を上げカップに口をつける。
それだけのことなのだが、色気があるなと思ってしまった。
「美味い…酒もいいが、やはり紅茶もいいな。エマが淹れてくれたものなら尚更だ。」
「!ま、またそんなことを…」
またさらりとそんなことを言われ、エマはいちいちピクリと反応してしまう。
「だから冗談ではないと言っているだろう?」
「あ、ありがとうございます…」
楽しそうなエルヴィンとは反対にエマはぎこちなくもとりあえず礼を言う。
エルヴィンの様子を見ていると、やっぱりからかわれてるだけなんじゃ?と思いたくなる。
「ミケにはあの後会ったのか?」
「はい、今朝謝りに行きました…」
ミケに対してはそれはそれは申し訳ない気持ちでいっぱいで謝罪したのだが、彼はまったく気にする素振りを見せていなかった。
エマは一安心したと同時に、ミケの懐の大きさに感謝していたのだった。
「実は呼び出したのはミケのことなんだがな。」
「?」
エルヴィンは急に真面目な顔になり、また話を切り出した。
「彼に君のことを勘づかれてしまったんだ。」
「え?どうして…」
昨日あの場で何かまずいことでも口走ったっけ…
まさか!自分が酔っ払って言いふらしちゃったんじゃ…
いや、それならきっと兵長が昨日教えてくれてる気がする。
「匂いだよ。君の匂いを嗅いで、ここに住む人間ではないことを察知したようだ。」
「に、匂いで?!」
エマはまさかの理由に仰天し、つい大きな声を出してしまった。
ミケは人より鼻がだいぶ効くとは聞いていたが、まさか匂いでここの人間ではないことを暴かれるなんて思ってもみなかった。
「あいつの鼻は本当によく効くし、勘もいい。もう隠し通せないと判断して、さっき私の口から喋らせてもらったよ。勝手な真似をしてすまないな、エマ。」
「い、いえ…ここでは私のことはエルヴィン団長や兵長に委ねていますから、平気です。」
正直ミケにはかなり驚いているが、エルヴィンの判断に身を任せた。
「そう言って貰えてよかった。ミケは周りに言いふらすような真似は決してしない。だからその辺は安心していいよ。」
「はい、わかりました!」
「ありがとう。」