第8章 エルヴィンの憂鬱
コンコン一
「エマです。」
ガチャ一
「休日だというのに呼び出してすまないな。」
歓迎会の翌日の夜、エマは団長室に呼ばれていた。
わざわざドアを開けて出迎えてくれたエルヴィンに軽く頭を下げ、中へ入る。
「いえ、お気になさらないでください。たいして用事もなかったですし。」
「それなら良かった。今茶を淹れるからそこに座っていてくれ。」
「あ、それなら私に淹れさせてください。」
「そうか、じゃあお願いするよ。」
こちらは呼ばれた身なのだが、何となくエルヴィンに茶の用意をさせるのは気が引けたため、エマは自らキッチンに立つと申し出た。
コンロの前でお湯が湧くのを待っている間、エルヴィンを横目で見ると、机に座って書き物をしているようだった。
休みの日まで仕事をしているのだろうか?
多忙な団長のことだからきっとそうなのだろう。
エマは彼の姿をぼーっと眺めていると、ふと久しぶりにエルヴィンと二人きりだということに気が付いた。
昨日はエルヴィンもエマも泥酔してほとんど会話をしていない。
こうして二人で会うのは、数日前のあの早朝以来だ…
エマはあの時エルヴィンに言われた言葉を思い出し、急に緊張が襲う。
…だめだめ、わざわざ思い出さないようにしよう。
あの時のことは一旦忘れて、平常心、平常心。
エマは自分に言い聞かせなんとか心を落ち着かせると、ヤカンに沸いたお湯を茶葉の入ったティーポットに注いだ。
「今日もいい香りだ。ありがとう。」
「いえ、どういたしまして。」
書き物の手を止めてソファにくると、にこやかに声を掛けるエルヴィンはいつもと変わらない様子である。
エマもエルヴィンの向かいに座ると、紅茶を二人分のカップに注いでひとつをエルヴィンの方へ置いた。
「昨日は楽しめたかい?」
「はい、おかげさまで楽しかったです!後半は皆さんにご迷惑を掛けてしまいましたが…」
「その話はミケから聞いたよ。私も起きていれば面白いものが見られただろうに、すごく残念だった。」
「私はあんな姿、団長に見られなくて良かったと思いましたよ…」
「ハハ!お互いハンジにまんまとやられたな。」