第7章 初めてのお味は…
ギシッ一
「?!」
リヴァイは立ち上がって何の迷いもなく再びベッドへ上がると、エマに覆いかぶさるように両手をついた。
端正な顔があっという間にエマの視界を埋め尽くして、切なげな瞳から一瞬たりとも目を逸らせなくなる。
「俺には気を許してくれているのか…?」
「へ、いちょう…」
掠れた声で問いかけるが、今のエマにはか細い声で名前を呼ぶのが精一杯だ。
思わず呼吸が止まりそうになる。
まるで捕らわれてしまったかのように、視線から逃れることができない。
シン…と静まりかえった空気の中で、エマの心臓だけが大きな音を立てている気がした。
…様子がおかしい。
ミケさんのことで兵長の機嫌を損ねたのは分かったのだけれど、何故機嫌を損ねてしまったのか理由がよく分からない。
どうして、そんなに切なそうな顔をしているの…?
そう思っていた次の瞬間、エマの心臓は一際大きく音を立てた。
「なぁ、エマ…」
「!!
へ、へいちょう!待ってください!!」
自分の名前を呟きながら突然迫ってきたリヴァイに、咄嗟に大きな声を出してしまったエマ。
その声によってリヴァイの動きは停止した。
だがその距離は僅か数センチ先だ。
「あの…兵長の気に触るようなことをして本当にごめんなさい。私が浅はかでした…」
「………」
「あ、あの…兵長…?」
エマが恐る恐る言葉を紡ぐと、少しの沈黙の後、リヴァイは静かに言った。
「…俺の方こそ悪かった。」
リヴァイはいつもの抑揚のない声で謝罪の言葉を口にすると、エマから離れ彼女に背を向ける形でベッドの縁へ腰掛ける。
エマは目の前からいなくなったリヴァイを追いかけるように上体を起こして彼の方へ身を乗り出した。
「いえ、兵長は悪くないです!元はと言えば私が悪酔いしてしまったからで…」
「…俺も何をムキになってたんだかな。今のことは忘れてくれ。だが…今後しばらくは酒は控えるようにしろ。」
「分かりました…」
リヴァイは背を向けたままそう言うと、シャワーを浴びてくると言って備え付けの浴室に行ってしまった。